蜜月まで何マイル?

    “2年後に…”
 


ただでさえ此処がどこなのかが判らない。
シャボンディ諸島での乱戦のさなか、
七武海だというドでかい野郎に、
悪魔の実の能力だろう、力技にて転送されたらしく。
あちこちガタが来ていたのも含め、一気に疲れや消耗が出たか、
着いたそのまま寝込んだらしいが、
そんなこたぁどうでもいい。

 「どうでもよかねぇよっ!」

 まったく、
 いきなり降って来たかと思や、
 3日も全っ然目ぇ覚まさねぇでいるわ。
 起きりゃ起きたで、
 礼の1つもないまま どっか行こうとしかかって、
 けど結局、それも出来ねぇ、
 破壊的な方向音痴野郎だったりするわっ。

 「〜〜〜〜。」

勢いよく“訂正求む”と言わんばかりのツッコミを、
速射砲で寄越したホロホロうるさいこの女と、
何でまた顔を合わせにゃならんのか。

 しかも…それだけじゃない

やたら身ごなしの冴えてやがる
何とかドリルとかいう大猿が群れなして巣くってやがるわ。
そいつらがそんな身の上なことの、理由というか原因というか、
人の行動、何でも吸収するっていうそいつらの、
見よう見真似のモデルになってたらしいのが。

 選りにも選って、あの………

 『何だ。海軍本部には麦ワラしか見えぬと思ったら。』

どうしてだか、ルフィだけが辿り着いていた、
歴史に残るだろう規模の頂上決戦の修羅場へと、
そいつも足を運んでいたらしい、七武海の大剣豪。
鷹の目、ジェラキュール・ミホークが、
日頃の住まいとしていた、元・王宮廃墟だったとは。

 “道理でややこしい作りだった訳だ。”

  ………おいおい、感じ入ったはそこか、三刀流。



     ◇◇◇


たかが猿を相手にぼろぼろにされ、
しかもそこへと齎されたは、

  ルフィがたった一人でどんな場へ殴り込みをしかけていたか

その“結果”が載っていた新聞による、
数え切れないほどの信じ難い事実の山で。

 恐らくはルフィ自身も土壇場まで知らなかったはずの展開
 彼の兄が海軍に捕らえられ、処刑されようとしており

行く先々で途轍もない味方を得、
ルーキーの身でありながら、
そりゃあ大きな台風の目となりつつ。
あの白髭海賊団を迎え撃たんと待ち構えていた
海軍本部の総本山、
マリンフォードに乗り込んでいたなんて。

  それはそれは大切な兄を助け出すための、
  正に捨て身の奮闘が、だのに……。

本部が壊滅したところで、
替えられないものを失ったあいつには違いなく。
どれほど破天荒だとはいえ、
怒りどころは間違えない奴だもの。
さぞかし…大切な存在の命が攫われてしまったことへ、
そして、届かなかった手の至らなさへと怒り狂い、
灼き切れるほどの怒りに、目が眩むような想いでいたに違いない。
それを思うとき、どんなに振り払っても滲み出してくるのが、

 “……俺がいたとして、どれほどの助けが出来たものか。”

気を散らしていた訳ではなく、
斜め頭上から振り落ちて来た棍棒を、それを握っていた存在ごと、
刀の一閃で薙ぎ払った上で、

 「ぎゃぎゃっ!」

返す刃の柄頭にて、
やはり降って来た後陣のこめかみに、
岩をも砕けよとの勢い込めた一撃を見舞う。
四方八方に上下も足しての全方位に警戒しつつ、
途轍もない膂力をした、
しかもただの野生じゃあ身につきゃしないはずの、
複数頭による畳み掛けまでこなせる大猿連中を相手に。
朝から晩までという斬り払いをし続けて、もう何日目となることか。
振り下ろす膂力へ落下の力も加えてのこと、
容赦なく、しかも巧妙な攻勢をくわえてくるこいつらなのは、
此処にねぐらを構えるあの“鷹の目”の、
身ごなしや振り払いようを見て覚えた結果なのに間違いなく。

 「てぇあっ!」

堅く張り詰めた二の腕へ、尚の筋骨が盛り上がり、
振り切る動作に載せた“斬る”という意志にじませた剣撃が、
間近にあった梢ごと、数匹の猿を宙高く跳ね飛ばしており。

 “……こんなことが出来たってしょうがねぇ。”

頭の中が灼き切れそうだし、腹の中は煮えたぎり、
胸へと閊える何物か、怒鳴ってがなって吐き出したくって、
じっとしているのがそれはそれは難しかった。
自分で自分が不甲斐ないとの、
歯軋りものな想いがついつい沸き上がって来ては、
何かに喰ってかかっての咬み裂きたくなる衝動を、
身のうちへ押し留めておくのが難しく。

  叫んでも殴っても、
  自身を傷つけ、痛みに我を忘れても、
  そんなことをしたところで変わるものじゃあない、
  もう定まってしまった“現実”の いかに残酷か。

胸の奥底、ずっとずっと過去のこととして、
似たような想い、した覚えがないワケじゃあない身だから尚のこと。
きっとあいつもそんな痛さに転げ回ったに違いない。
もうどこにも居ないなんて嘘だと、
真実に追いつかれるのが怖くて怖くて、
身喰いに近いことをして荒れたに違いない。

  だが

抱えて来た傷がとりあえずは塞がったのでと、(注;自己申告)
癪なことだが、仕方がない。一番手っ取り早いことを選んで挑んだ。
そいつを倒すことが目標だったはずが、
もっと先へと進まねばならぬと気づいたから。
だから、

 『俺に剣を教えてくれ。』

鷹の目を倒し、踏み越えてゆけるだけの力が要るのだ、どうしても。
あいつが 3日の約束を2年と仕切り直したほど、
確実に、そして性急に。

 「………っ。」

木葉擦れの音が微妙に変わった。
風向きの変化に紛れさせ、2方向から掛かってくる気配が拾える。
さっきの一撃 躱したついで、
森の奥へ向け、樹上を飛び渡っていた剣豪、
その気配に視線だけを向け分けてから、
駆け続けで移動しつつも2本の刀をそれぞれへと構えて待ち受け、

 「ぎぃっ!」
 「ぎきゃう、わっ!」

狭苦しい樹上に唯一空いていた、枝渡りルートの空隙目がけ、
左右から空間すべてを塞ぐ勢いの棍棒が襲ったが、

  ―― 哈っ!

避けもしなけりゃ逃げもせず、
片やは前方、片やは左側の上段に、
その攻勢の動線 断ち切っての受け止めて。
一瞬の“溜め”の後、一気に解き放ったのが、
気脈を巡る“生気”を圧搾でもしたかのような、
それは強い気魄の暴発。

 「ぎゃあっ!」

刀の切れ味でもなく、腕力でもなくという、
気勢のみにて吹き飛ばされた大型ヒューマンドリルが、
天高く吹っ飛んだ気配を、遠目にちらと仰いだ師匠はといや、

 「…………。」

特に感慨はなかったか、いやいや、
ああまでしゃにむになれようとはなと、
とことん不器用な押しかけ弟子の心情を、
何とはなく感じとっての“黙して語らず”だったようで。

 “2年後、か。”

期限を切られたんでは仕方がない。出来なかったとは言う気もない。
だからこその あの暴走ぶりと、
他人の心持ちが判る自分が微妙に可笑しくて。
定位置の椅子から動かず、視線も揺るがせにしない彼なのへ、

 「まったくもうもう、
  剣士ってのは何て度し難い生き物なんだかなっ!」

きっとまた凄んごい怪我して、
それが理由でってカッコでしか戻ってこねぇに決まってるんだ。
あんたも何か言ってやればいいのによっ、
上達すんにはコツとかツボとかあんだろに。
やぶさかではないって修行を始めさせときながら、
何だなんだそのズボラぶりはよっ

  ……と、けたたましく喚くのはきっと、
  心配なんだという心、糊塗しているからに違いなく。
  判りやすいのは大いに結構と、
  判りにくい無表情のまま、
  島のどこかで暴れ回る誰ぞの気配、
  拾い続けていた、現在の大剣豪だったのだった。






      ◇◇◇



まずは一にも二にも集中力の取得というところだが、
型通りの精神修養だと本来何年掛かるか知れない代物。
いくら飛び抜けた素養の持ち主だと言っても、
たった2年で、しかも自然と物に出来るとまでは思っちゃいない…と。
覇気の制御という、
新世界に向かうにあたっては必要だろう力を伸ばす修養、
直々に付き合ってくれることとなった師匠の冥王のじいさんは、
何だか難しいことを言ったその後で、
島の周縁を、決まった数の百倍、30分で廻って来いとか、
滝に落とした色石を、浅瀬だから大丈夫と付け足しつつ、
千個拾い上げては落としてを数百回、
そっちも30分で出来るようになれだとか。
この島に住まう凶暴な生き物たちを制覇することが出来るかなと、
微妙におっかないことのおまけつき、
それにしては楽しげに微笑って見せつつ、毎日課してくれ…下さっていて。
しかもそこへと並行して、
周囲の木々や風の気配まで嗅げというから、

 “気配を悟れたら、それほど難しいことじゃないって言われたけどよ。”

生き物の気配は何とか嗅げるが、
風の気配や水の気配なんてのはそもそも呼吸してねぇんだもん、
嗅げるもんじゃねぇって言ったら…しっかり拳骨もらってしまった。
さすがは覇気の使い手で、さりげないごつんが痛いの何の。
ゴムゴムの能力のせいでか、
滅多に痛い拳骨にはあわなんだので、
尚更効いたのへ、転げまわって喚いていると、
今度は静かにしろと殴られそうになったのでと姿勢を正せば、

 『よしか、ルフィくん。』

覇気の力、自在に使えるまでに高めなければ、
この先の道中、それは苦難の連続となる。
足りないが補えるものならば、
きっちり備えておくに越したことはなかろうと、
ちゃんと話は付いたはずだがな、と。

 「…はい。」

やべやべ、おっちゃん、顔が笑ってるときほどおっかねぇんだよなと。
それもまた見聞色の覇気の能力で読み取ったのか、
いやいやそのくらいは、世渡りの上手い要領のいい者ならば
きっちり伺えておりますレベル。
言われたノルマを消化しに、鬱蒼とした森の中へと消えた背中を見送り、

 「やれやれ、私が付いている間にどれほど伸びてくれるやら。」

かつて共に荒海へと繰り出した、
後世、金色と冠されたほど偉大な、
だがだが実のところは大きなやんちゃだっただけの、
懐かしの船長とどこか似たところも多かりしな、
可能性を山ほど抱えた不思議な少年へ。
冥王などと呼ばれた末、世捨て人のように振る舞って来た自分を、
とうとう立たせた奇跡を重ねる。

 「……。」

あの凄絶な戦いの中、結果はむごたらしかったが、
それでも…多くの人々の希望となりもした、
エースの弟、麦ワラ帽子の少年は、
ただただ悲観して立ち止まることはなくて。
失ったものやその事実が抉っていった心のどこか、
きっと大きな穴や傷が残ってもいようけれど。

  何もかも失ったのか?

そうではなかろうとのジンベエの問いかけへ、
まだ失ってはない希望、仲間という宝をやっと思い出した 強靭な彼は今、
頑張って顔を上げ、仲間たちとの再会に向かって駆け出し始めてもおり。

 「2年後か。私も楽しみだぞ、ルフィくん。」

どうやって鍛えてやろうかと、
微妙に冴えての強かそうな眸を見せた老師だなんて知りもせず、
下生えも木立も見分けのつかないほど生い茂った森を、
時々飛び出す獣を“邪魔だ、どけどけ”と蹴手繰りつつ。
全力疾走で駆けながらも、ふと思い立ったことがあり、

 “………あ・そうだ、2年経ったら俺、ゾロと同じ19歳じゃん。”

驚くかな、男らしくなったって惚れ直すかなぁ。
そうしたいなら、やっぱ頑張んねぇとな…などと。
時々頬や肩口を、梢の先にちみちみ裂かれつつ、
そんなことを思う余裕まで出て来たらしかったものの、


  ―― その二年後も、
     さして見栄えは変わらぬままなルフィさんだったことや、
     それより何より、
     ゾロだって21歳になってるって事は失念していたらしいこと。


   神ならぬ身の彼は、知る由もなかったのでありました。





   〜Fine〜  2011.05.29.

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   momo様 『蜜月〜設定で、
        それぞれの想いを胸に秘め、2年間の修行に励む2人』


  *すすす、すいませ〜ん。
   修行どころか、
   ここんとこ親分噺以外では
   あんまり立ち回りもさせてなかったことを痛感しつつ、
   頑張って暴れていただきましたが、
   今のもーりんには、これが精一杯だったみたいです。
   レイリー、ミホーク両師匠の視線というのでも可なんて、
   それは美味しいセッティングまでご提案いただいたのに…。


 めーるふぉーむvv ご感想はこちらまでvv

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